2005.06.30 14:39病気のこと 少し(けっして忘れないこと)おかあさんの 病気について 少し 話しておきます。キミたちは ちょっとくらいは 覚えているのかな。それは とっても 突然で ひょっこり顔を出したんだ。左の胸の上 何となく触ったら ビー球くらいの こりこリ があった。相変わらず お母さんは カンが悪い。肌着のワイヤーが いつも当たって痛かったから、そのせいで 何か出来たのかななんて 思ってた。でも やっぱり ちょっとは 気になって、1週間くらいは 本を読み読み考えた。似た症状の 病気のところを読みながら一番 深刻そうじゃないのを 何回も読んで、コレならいいなぁ・・って思ってた。 おとうさんにも相談して やっぱり 病院行こうって決めたんだ。 おとうさんの 大きなジャンバーを その日だ...
2005.06.29 15:56母 (陽だまりの部屋) 電話の 姉のナミエの声はひさしぶりにおだやかだった。── とにかく一度 お線香くらいあげに 帰ってきなさいよ。大丈夫、もう説教したり説得したりする気も ないからさ。 田舎に残って父母と同居しその条件で結婚相手を探した姉のナミエには 色んなことで迷惑をかけた。語学が勉強したいとか適当な理由をつけて 有起哉が家を出た時,父親は カンカンに怒った。 けれど母親は 姉夫婦が 小遣いとして 月々くれるお金をこっそりためて 有起哉に仕送りし続けてくれた。小さな畑でできた野菜と一緒にそれを送っていたことを後で知ったナミエは 当然だが気を悪くした。 一度も帰らない弟のために そのまま おいておくよりも、小学生になった息子の翔太に 部屋を空けてやって欲しいとナミエが言...
2005.06.29 14:00のら 駐車場のねこ 1階だったら 良かったのに・・。弟のシンヤは よく そう言う。ウチは ペット禁止のマンションの 12階。子ども部屋の窓から 見下ろすと 小さく駐車場が見える。子猫の「のら」を見つけたのは その駐車場の植え込みの中だった。そばにあった 白いトレイに 何かエサが 入れられていた形跡があるがもうすっかり乾いている。空腹なのか みゃー みゃー情けない声で鳴いていた。「お姉ちゃん、牛乳とかやっちゃダメ?」12階まで上がることも大変だったけどそれよりも・・「ダメ。アンタも知ってるでしょ。この前向いの棟のおばあちゃんが・・」動物好きの1人暮らしのおばあさんが、野良犬や野良猫にエサをやっているのは大抵の人が知っていた。本当は敷地内でエサをやるのも禁止なのだ。おばあさ...
2005.06.29 08:30ねこ(風と草の記憶)サワサワ ザワワいうのは 何?ぼんやり 明るくなって 暗くなって明るくなって 暗くなって 僕、うとうと 眠ってたんだよ。そしたら いつのまにか大きくて あったかくて優しい 場所がなくなっていた。くちゅ くちゅ くちゅ押し合いへし合いだんごになって 飲んだあの おいしくってしあわせなものそばにない。サワサワ ザワワ音が大きくなるとちょっとこわくて おんなじ大きさの あったかいぬくもり探し合ってひっついて また眠った。 寒くは ないけど ぷるぷる ふるえた。ミィミィ チィチィみんなで呼んだ。どこにいるの?オカアサン。明るくなって 暗くなって気がついたら そばにもうだれもいなかった。サワサワ ザワワ 音だけがした。あなただれ?ザワザワ言わないでこわいか...
2005.06.28 15:58虹の橋タクを追いかけて シュウジも教室を飛び出した。驚いたり おもしろがったりして騒ぐ みんなの声 あわてて静かにさせる 先生の声──よそ見してるのを先生に注意されたから タクがキレたそういう声も 聞こえたけど違う そうじゃない、 シュウジは 思う。授業中 タクがぼんやりと 雨あがりの校庭ばかり見てたのを、シュウジは その前から知っている。はじかれたように立ち上がって教室を飛び出したのは先生の言葉とは 全く関係ない。そんな 気がする。階段を降りくつ箱に急ぐ。下足場にタクの上靴がばらばらに脱ぎ捨てられていた。タクの足は学年一速いから普通に追いかけたって追いつきっこない。昨日、お母さんがタクのことを話してきた。なんだか変な中学生と一緒にいたのよ。スニーカー踏んで...
2005.06.27 15:00夏まつり(金魚)「盆のころ一度帰って来いよな。 夏祭り、同窓会にしようぜ」メールしてきたのはユウジのくせにコイツは何の計画も立てず、誰にも連絡してない。「お前、小学生の時から、ほんっと変わんないな。」二人で 夜店をぶらぶら見ながら歩いていた。まぁいいや 誰に会いたいってわけでもないし。 「やっぱオトコ二人じゃな・・。誰かちょっと探してくるわ。」 止める間もなく、ユウジはどこかに行ってしまった。中学のとき引っ越したきりだからタカキ一人で歩いても、誰も気づかないかもしれない。何で、来たのかな・・石段の下に立って、ぼんやり賑わう人波を眺めていた。「タカくん?」子どもっぽい金魚の柄の浴衣の女の子が段の上に立っている。人ごみ、喧騒は相変わらずなのに その子の周りだけ空気の色が違...
2005.06.18 06:34しゅくだい「おやすみ。」こども達に声をかける。これでやっと、自分の時間だ。コーヒーを淹れるお湯が 沸くまでの間に、リモコンでTVをつける。ドラマが今 始まったところだ。ソファーにゆっくり腰を降ろした その時、パジャマ姿のコウタが リビングに戻ってきた。「寝なさいって言ったはずよ。何時だと思ってるの?」コウタは ドアのところに立ったまま、TVの画面をチラチラ見て 動こうとしない。サトミはパチンとTVを消した。 今 小学生にも人気のあるドラマだとは聞いている。きっとコウタも気になるのだろう。だけど・・とサトミは思う。━ 私なんて、8時半には寝るように言われてた。 高学年になったらいくらなんでも早すぎると思ったけど・・。 テレビ番組は親が選ぶものだったし、...
2005.06.13 03:31けっして忘れないこと / 決心(キミたちが、会えなかった もう一人のお姉ちゃんの 生まれた時の話をさせてね。)「ウン、生まれたよぉ、元気、元気。 凄く楽だったよ。 ツルンて感じ。 ちょっと小さかったからかなぁ・・ いいよ、いつでも会いに来てね。」夜中に二人目の赤ちゃんを産んだ。 その朝、お母さんは浮かれていた。一人目のときは、長びく陣痛と酷い出血があったけど、今回は、朝の自分の元気さに時間も体力も持て余していた。産んですぐは、母子別室なので面会時間に ガラス越しに見に行くだけでいい。公衆電話の周りをウロウロし、友達に 出産の報告の電話を かけまくった。何にも考えてなかったよ。ほら、お母さんは大事なときには、カンがちっとも働かない。 面会用の小部...
2005.06.11 06:31きつね(友だち100人できなくっても)「おい、キツネ。」タカシがそのあだ名でマリエを呼んだ瞬間、女子の目が一斉にタカシに向けられた。 ナツミが慌てて駆け寄ってきて マリエの前から回り込み「マリちゃん、理科室行こ。」と、トレーナの袖を引っ張った。 数人の女子がタカシを囲んで何か言っている2学期まで マリエの苗字は「ツネキ」だった。─ お父さんの姓だ。「せめて 3学期まで、ううん、マリちゃんがそうしたかったら、 学校ではそのままの名前でもいいのよ。」お母さんは言ったけど「いいよ。お母さんと同じ苗字がいい。」マリエはきっぱりと言った。3学期の準備で引き出しを開けると、ノートに 教科書に「ツネキ マリエ」の文字が黒々と書かれている。自分で書けるのに、ちょっぴり甘えて、お...