「おやすみ。」
こども達に声をかける。これでやっと、自分の時間だ。
コーヒーを淹れるお湯が 沸くまでの間に、リモコンでTVをつける。ドラマが今 始まったところだ。
ソファーにゆっくり腰を降ろした その時、パジャマ姿のコウタが リビングに戻ってきた。
「寝なさいって言ったはずよ。何時だと思ってるの?」
コウタは ドアのところに立ったまま、TVの画面をチラチラ見て 動こうとしない。
サトミはパチンとTVを消した。 今 小学生にも人気のあるドラマだとは聞いている。きっとコウタも気になるのだろう。だけど・・とサトミは思う。
━ 私なんて、8時半には寝るように言われてた。 高学年になったらいくらなんでも早すぎると思ったけど・・。
テレビ番組は親が選ぶものだったし、 家の約束事はしぶしぶでも 黙って守ったわ・・。
それでもコウタが まだ突っ立ったままなので、サトミもついつい声を荒げてしまう。
「テレビはおしまい。約束のアニメ、時間分見たはずよ。 お兄ちゃんはもう寝てるんでしょ?」
本当はサトミが見たいのだ。続きを楽しみにしてたのだ。
でも、こんな時間のドラマを 小学校低学年の息子と一緒に見るなんてサトミの中では考えられない事だった。
「ゲームだって、今日は延長させてあげたでしょ。 いいかげんにしないと、お母さん怒るよ。」
コウタは 目に涙をためたまま、黙っている。この次男坊は 言いたいことをはっきり言わず、メソメソするところがある。
ついついサトミも 感情表現のはっきりした長男に較べてしまいこういうときは特にイライラするのだ。
「もう いい。」
コウタは くるりと向きをかえると いつもより少しだけ大きな音をたてて、ドアを閉めて出た行った。
伝えることを 諦めて、「もういい」と言ってしまう・・・
こんなところが 自分自身の小さい頃とそっくりだ。だから、余計にイライラするということはサトミ自身もよく解っている。そして、サトミもまた、「お兄ちゃんに較べて おとなしかったから」 という理由で、母から聞ける思い出話の少ない事を ちょっとだけ、寂しく思っていた。
だからこそ 二人目にもいっぱい目をかけよう、おしゃべりをしよう、アルバムの写真の数だって、絶対に差をつけないんだから・・・・
サトミはずっと そう思ってきた。 お湯のふきこぼれる音に、あわててキッチンに行こうとした時、ドアが少しだけ 開く音がした。振り返って見ると 隙間にプリントが一枚 差し込まれている。
━ ははん、点の悪いテストを見せそびれて、 それでモジモジしてたのか・・。
サトミは 情けないような 腹立たしいような気持ちで、差し込まれたプリントを手に取った。
プリントには、コウタの下手くそだけど 生真面目な字が並んでいる。
「 しゅくだい ① 今日あったことを おうちの人とはなそう ② 自分の小さいころのことや生まれたときのことをきこう ③ おうちの人の小さいときのはなしをきこう おうちの人のコメントらん (ここにかいてもらおう) 」
お湯はシュウシュウいっている。
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