「盆のころ一度帰って来いよな。 夏祭り、同窓会にしようぜ」
メールしてきたのはユウジのくせにコイツは何の計画も立てず、誰にも連絡してない。
「お前、小学生の時から、ほんっと変わんないな。」
二人で 夜店をぶらぶら見ながら歩いていた。まぁいいや 誰に会いたいってわけでもないし。 「やっぱオトコ二人じゃな・・。誰かちょっと探してくるわ。」
止める間もなく、ユウジはどこかに行ってしまった。中学のとき引っ越したきりだからタカキ一人で歩いても、誰も気づかないかもしれない。
何で、来たのかな・・石段の下に立って、ぼんやり賑わう人波を眺めていた。
「タカくん?」
子どもっぽい金魚の柄の浴衣の女の子が段の上に立っている。
人ごみ、喧騒は相変わらずなのに その子の周りだけ空気の色が違うように見えたのはなぜだろう。「ユキオカ?」
すぐに解ったのは、ユキオカが全く変わっていなかったからだ。トロくて赤面症でチビだったくせに中学になったとたん背が伸びて・・・何だかムカついた幼なじみのユキオカ。
「背、伸びたね。」
「あたりまえだ。何年経ってると思ってんだ。バカ」
ユキオカは金魚が一匹だけ入ったビニール袋を提げている。
「全然すくえなくて・・。一匹もらっちゃった。」
「トロくせぇの。」
「私んち水槽ないんだ。タカくんち金魚好きでしょ。一緒に育てて。」
「決め付けんなよ。いらねぇよそんなの。いじめられるか弱ってすぐに死んじまうに決まってら。」言ってから ドキリとした。
タカキの心を見透かしたかのようにユキオカは言った。
「タカくんには一度 助けられたね。オマエらの方がよっぽどウゼえんだって怒ってくれた。」
あいつらがただ嫌だっただけだ。他人をいじめることで仲間のつもりになって ・・。
オレがユキオカにポンポン物を言うのも一緒じゃないの、って逆ギレしてきた。
「助けてなんか ないし。」
「うん、でも嬉しかった。」
「おーい タカキ。あれ? 金魚すくいしてたの?」
「え? あ、これ 今ユキオカが・・。」
ユウジに答えて振り向くと ユキオカはもういなかった。
「ユキオカってお前、それ人違いじゃないの?アイツ高校行ってから不登校になって・・・・・・うわさではさ・・・・・・」
花火が大きな音を立てて上がり、ユウジの言葉はもう聞こえなかった。
「新しい仲間だぞ。トロくってもいじめんじゃねえぞ。」
小さな赤い金魚をタカキは水槽にそっと放った。
元気に泳ぎ出す様子を少し眺めてからもう一度 ひんやり冷たいガラスに顔を近づけてみる。 「オマエ絶対負けんじゃねぇぞ。」
ひらひらと赤い尾ひれを揺らしながら、金魚はゆっくりとタカキの方に近づいて、離れた。
なんと 背景つきも 描いて下さいました
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