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ぺんぺん草 花束にして


オリジナル小説、随筆など。fc2「stand by me 」から引っ越しました。

2021.09.03 07:38
柿の実 猫の木 ヨリの庭
「『庭の柿』だよ。凄いでしょ」ビニールの袋にどっさり入れて それをうちに持ち込んだのは幼馴染のひよりだ。──見た目は悪いけど、こういうのこそ美味しかったりするんだよ。ひよりは慣れた様子で我が家のキッチンに入り、果物ナイフを出して皮を剥き始める。食器棚からデザート用の皿とフォークを二つずつ選ぶひよりの動きには迷いも遠慮も無い。うちのダイニングテーブルの三つ目の椅子は 足が床につかない頃からずっと、ひよりの指定席だ。満面の笑顔で差し出された「庭の柿」は、カリカリと硬い上、甘みも少なく、なかなかに不味かった。看護師の母は夜勤で留守。こういう夜は昔からひよりが必ずやって来て だらだらテレビなんか見ながら夜食を食べて他愛もない話をし、そのまま寝落ち。今回いつもと...
2021.05.30 07:11
草の波 夕暮れの船
「船だ」自転車を降りて、始めに呟いたのは有理だ。「おお、船だ」「船だ!船だ!」続いて和真、俊平、柊人。僕らは口々に叫ぶと自転車をそこに乗り捨てて、真っすぐ「船」に向かって走った。 小さな窓が並んで付いた壁、突き出たウッドデッキは舳先のシルエット、天窓のついた二階建ての部分はちょうど船尾側だ。近くで見ると少し形の変わったおんぼろな小屋には違いなかったが、遠くまで広がる草原の、風にうねる草の波の中、僕らを乗せるために現れた、それは間違いなく「船」だった。*小学生最後の学年になった僕らは、「探検」とか「冒険」とか言っては自転車で遠出した。行先はその日の気分次第。毎回違う道を選び、校区の外にだって平気で出る。どんなに遠くに感じたって限られた時間で行ける距離は大...
2021.05.01 07:53
終点の氷細工屋(お題は花言葉)
少し前のことになりますが、またまた文戯杯に参加させて頂きました。結果 ゲストとして掲載していただくことになりました。この機会に少しだけ考えたことを書き置いておきます。この話のテーマって何のつもりで書いたんだろう。読み手さんの受け止め方は自由。書き手と違った視点で読む人が居るのは当然で、国語のテストみたいに「正解」を求めるものではない、と思っています。そして「家族」について。どんな話でも私は登場人物の生まれ育った環境とか背景は大事だと思っています。描く文中にはっきり出すかどうかはともかく、今は生きていなくても、傍にいなくても、会ったこともなくても、交流がなくても、憎しみ合っていても、血のつながりだけ、または、血のつながりに限定しないとしたら「家族のいない...
2020.12.24 16:03
金木犀(カヤ&サク2)
窓を開けると花の香りが漂ってきた。あれは「金木犀」。夜になると余計に匂いがわかるよ、と言ったのは、昨年の朔。耳を澄ますと隣のテレビの音、向かいの給湯器の音、遠くで走る電車の音。「こんなに音がするのに 静かだって思うの、不思議だね」 その時の朔も、妙にしんみりした横顔だった。いつの間にか 外から帰って来たキジトラの仔猫は 毛布の上で丸くなって寝ていて、ぴくりともしない。安らかな寝顔。昼間は外で鳥を追いかけて あんなに激しく走り回って遊んでいたのに。「夜の闇と明るい黄色の月を見ているとさ、実家に残して来た年寄りの黒猫のことを思い出すんだ。手を差し出すとすぐに舐めてくれた優しい子だった」初めて聞く、朔の「思い出話」だった。 **最初、「トイレの芳香剤のかおり...
2020.11.20 02:19
OUR HOUSE
── 何が間違いだったのか* 転勤先で、二人だけの新しい暮らしが始まった頃は楽しかった。 地方都市らしい小ぢんまりした町並みも親しみやすい感じがするし、耳慣れない土地の言葉さえ、新婚生活のスタートにはふさわしく新鮮に思えた。 新しくはないけれど清潔な社宅の部屋。くるくると家事をこなし、やりくりを一生懸命している柚子の様子は、何だかままごとみたいで、それがまた、かわいく思えた。 仕事が忙しい僕に代わって、様々な手続きを柚子は一人でこなし、家具や雑貨を決めるのにも沢山店を回って スマホに写真を送って来た。「これにするよ、いい?」彼女のセンスに何ら問題は感じない。長々と返信するまでもない、と思っていた。仕事中なのもあり、笑顔のスタンプだけ返した。 柚子の好み...
2020.10.08 03:04
クリームソーダ・ブラックコーヒー(さかなの目Ⅲ)
さかなの目シリーズの3です。お題をどこかで貰うたび、この家族(特にお父さん)と結び付けて書き続けてきました。ダメダメなお調子者で父親としてはどうなの?って人ですが、突き放せないキャラクターです。てきすぽで頂いたお題で うろ覚えですが「喫茶店で」というお題だったと記憶します。
2020.09.22 07:01
泣き女
第58回 てきすとぽい杯〈夏の特別編・前編〉参加作品です。お題は「涙」。そして「前編」となる、というお題の意味がよく解っていなかったので 一応完結したつもりで書いています。他の作品を読んで 後で気が付いたのですが 「続き」を促すような書きたくなるような そういう魅力のある「前編」を書くのが本来のお題の意図だったのかなと思いました。そんな作品にも関わらず、早速「後編」を書いてくださった方がいらしたので 良かったなと思います。私が考え付かなかったような、くすっと笑えるところもある素敵な「後編」です。本当に有難うございます。とはいえ、投降後 色々な書き足りていない部分に気づき。「後編」を第58回 てきすとぽい杯〈夏の特別編・後編〉を自分でも書いて参加。一応ひ...
2020.09.21 16:35
四つ葉のクローバー
第五十八回 てきすとぽい杯〈夏の特別編・前編〉参加作品です。実は十年以上前の作品です。  物語を創り始めて間もない頃のまだまだ拙いものですが お題の「涙」と聞いてこれを手直しして出したいと思った次第です。  第五八回 てきすとぽい杯〈夏の特別編・後編〉では住谷ねこさんがこの話の後編の「十年後」を書いてくれました。私は彼女たちのその後なんて考えても無かったのですが 「その後」を書いてもらったことで彼女たちの存在感・生命が膨らんだ気がします。有難うございます。 そして「てきすとぽい」様、素敵な企画を有難うございます。
2020.09.10 23:00
泣き女(前編)+夏の終わり・最後の蝉(後編)
 祖母の葬式に来た婆さんは 棺に近づくと祖母の名前を呼びながら膝をつき、おんおん泣いた。 親類もすでにいない過疎の島のとんでもないへき地の一軒家でひっそりと祖母は暮らしていた。転んで倒れたところを 幸いにも通りかかった郵便配達員が見つけたとかで、遠く離れて住む僕の母に連絡があったのだ。 独りでは置いておけないのでやむなく呼び寄せることにし、うちの近くの病院や介護施設に入れたものの、慣れない都会では心身ともにどんどん弱り、あっけなく亡くなったのだった。 婆さんは周囲の好奇の目をものともせず、悲壮な声をあげ、ぼろぼろと涙を流し続ける。そんな風に泣く見知らぬ人がそこに居ることで、逆に冷静になる自分が居た。僅かばかりの会葬者も戸惑いの色は隠せない。妹が僕の袖を...
2020.05.28 02:17
此岸の蜉蝣
──池の向こう側が彼岸──ひがん?──そう、「あの世」深く暗い森のような庭の隅にその池はあった。花の時期を外れた蓮池は、水面とそこから突き出す葉ばかりでひっそりとしている。彼女が指さした「彼岸」側の木々の隙間から見える空は、ほんの僅かの間に夕焼けの色を広げている。茜色に染まった世界は引き込まれるように美しかった。**「おさだかなこです。よろしくお願いします」黒板に几帳面そうな小さい字で「長田加奈子」と書くと、転校生はそれだけ言ってぺこりと頭を下げた。艶のある黒髪、白い肌。美人の転校生が来たと男子生徒が騒ぐのに反比例して女子の視線は厳しかった。サダコ、と女子の中で誰かが呟くと冷たい笑いが波状に広がった。^もともと病弱な彼女は療養のために曾祖母の住むこの田...
2020.03.13 15:15
温かな向かいの席
先ほど手作りマスクを3つ作りました。ガーゼや柔らかなハンカチを触っていると ふんわりした落ち着いた気持ちになります。朝からドラッグストアに並んだ先週、先々週でしたが こんな時間もまた 良いものだと思いました。  2008年、いつもお題を頂いていたモノカキサークルさんが 事情で休止した間 お題と交流を求めて たどり着いたのが「TEXPO」でした。 字数制限のお題や三つのお題、100文字で、とかお絵描きのバトルなんてのもあり、それぞれのホームページもある よくできたサイトでした。どうしてこんなに伝わらないのか、と辛口感想にへこんだこともありましたが、優しい感想や評価も頂けて、交流もできる楽しい場だったと記憶します。 &nbs...
2020.03.03 09:24
たすけ舟の家
今回のてきすとぽいの「文戯杯」のお題は「気づいて、先輩!」でした。学生か社会人の先輩と後輩、うーんラブストーリー?告白までの甘いお話?とか、と考えたものの、ストーリーが全く膨らまず、「人生の先輩=お年寄り」の話なら書けそうだと思って取り組んでみました。ちょっとお題に無理やりのこじつけっぽい感もないことはないのですが、お許しを(汗)文藝雑誌「文戯」春号に掲載して頂けることになりました。ああっ、掲載は「春号」だったんだ。季節感ズレてしまいました。残念。-----------------------------------------------------------その家は「こども一一〇番の家」だった。子供が身を護る時に、頼っていいという「助け舟」になる...

ぺんぺん草 花束にして

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