2021.05.30 07:11草の波 夕暮れの船「船だ」自転車を降りて、始めに呟いたのは有理だ。「おお、船だ」「船だ!船だ!」続いて和真、俊平、柊人。僕らは口々に叫ぶと自転車をそこに乗り捨てて、真っすぐ「船」に向かって走った。 小さな窓が並んで付いた壁、突き出たウッドデッキは舳先のシルエット、天窓のついた二階建ての部分はちょうど船尾側だ。近くで見ると少し形の変わったおんぼろな小屋には違いなかったが、遠くまで広がる草原の、風にうねる草の波の中、僕らを乗せるために現れた、それは間違いなく「船」だった。*小学生最後の学年になった僕らは、「探検」とか「冒険」とか言っては自転車で遠出した。行先はその日の気分次第。毎回違う道を選び、校区の外にだって平気で出る。どんなに遠くに感じたって限られた時間で行ける距離は大...
2021.05.01 07:53終点の氷細工屋(お題は花言葉)少し前のことになりますが、またまた文戯杯に参加させて頂きました。結果 ゲストとして掲載していただくことになりました。この機会に少しだけ考えたことを書き置いておきます。この話のテーマって何のつもりで書いたんだろう。読み手さんの受け止め方は自由。書き手と違った視点で読む人が居るのは当然で、国語のテストみたいに「正解」を求めるものではない、と思っています。そして「家族」について。どんな話でも私は登場人物の生まれ育った環境とか背景は大事だと思っています。描く文中にはっきり出すかどうかはともかく、今は生きていなくても、傍にいなくても、会ったこともなくても、交流がなくても、憎しみ合っていても、血のつながりだけ、または、血のつながりに限定しないとしたら「家族のいない...