【つきのかけら】
やり切れなさに、月を思いきり蹴り上げた。
水溜りの中、月は微かに揺れ、元に戻る。
跳ねた雫を被った馬鹿な自分を罵った。
服についた雫がきらり光る。
月の欠片だね。
黙って後をついてきた彼女が言った。
【昔住んだ部屋】
新居探しの人囲み、曰く付きの部屋の話で盛り上がる。
こんな日は、確かめに来てしまう。
大切な思い出詰まった2DK。
あのこのお通夜をした場所。
見上げると、灯り点る窓、幸せな家族の気配がした
【学生服の箱 開ける】
くん、と嗅ぐ。
真新しい布の香りだ。
深い黒色、曇りのない金釦。誰の形でもない学生服。
日々、たくさんのものをしみ染込ませ、3年を終えた時、いい思い出の品になりますようにと、
母はただ祈っている
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