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「藤原学級鈍行列車」
よそのクラスの子がうちのクラスの前の廊下で、そう言った時先生は怒った。
なあ、ナオト、電車の大好きなナオトの、その嬉しそうな顔見てると先生は怒った自分が間違ってたかなと思う。電車が好きだから、長く乗っていられる各駅停車がいいんだね。窓の外を流れる景色を その目でしっかり確かめて、窓から入る風で季節を感じて、カタンカタン走る電車が ナオトは好きなんだ。だからナオトは喜んで その日から教室を電車の絵で飾った。
きれい好きのタカシは ナオトの飾った絵がゆがんでたら、きちんと真直ぐに直してくれた。
泣き虫シズカも出来上がった電車の教室を見て、「いいね」って笑ってた。
歌の好きなユキ。ユキのあだ名は「歌手」。どこでも気持ちよさそうに歌う。皆が拍手すると、ユキは笑顔見せ、とても優雅にお辞儀する。頬を少し赤らめて、目をキラキラ輝かせて。卒業式のために練習した歌、ユキは今日も通学の電車の中で歌うんだね。
この間は 知らないおじさんに睨まれた。昨日はお婆ちゃんに いい声ねって褒められた。
先生はユキに本当は何を教えたらいいのかな。ごめんな、先生にもまだ、解らないことがいっぱいだ。
電車の教室で また歌おう。心行くまで歌おう。ゆっくり ゆっくり 進んでお行き。卒業おめでとう。みんな みんな 大好きだよ。
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「藤原学級」から 賑やかな笑い声が聞こえる。
「そつぎょうおめでとう」と大書された黒板。壁の飾りつけは 電車の絵。
「カシュ、カシュ」手拍子に乗って、小柄な女の子がついと前に進み出て制服のスカートの裾を両手でちょいと摘んでお辞儀する。すくっと背筋伸ばし、卒業式の歌を女の子が歌う。皆も合わせて歌う。
年配の先生が目頭をそっと押さえ、頷く。
「車窓」から 気の早い桜の花びらが一片、舞い込んだ。
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