絵を描く人になりたかった4














1.うちのねこのはなし










ほとんど 鳴かない 猫だった。



ずっと そんなものだろうと 思っていた。



小さな毛玉だった頃から 3年経て やっと



「ご飯?」



「ご飯 欲しいの?」



何度も聞いて じらすと



「なぉーん」



短く やっと 声を出す。



トイレ 終わったよ・・と



やはり 短く 「みゃあ」と鳴く。



聞こえても 聞こえなくても



応えてやっても やらなくても。



それにしても 外の猫たちは よく鳴くのだ。



母猫が呼び 子猫が答え



通りかかった 人に甘え



えさをねだり



テリトリーを誇示し



敵を威嚇し・・・



たくましく 甘え上手な 外の猫たち。



鳴かない猫は



網戸を隔てた窓の外の 小さな小鳥を相手に



くるくるきゅるる と



のどを鳴らす。



暖かい部屋で おなかを減らす心配もなく



守られて 退屈の意味も知らず



鳴かないまま 猫は 生きてきた。



ねぇ、キミ 幸せ?



すりりと わたしの足の間を通り抜け



エサの皿の前に ちんと座ったまま



そろそろ 時間だよ・・と 見上げるキミ



「ご飯?」



「欲しいの?」



「欲しいの?」



何回も聞いてみる。



「みゃあうーん」



言葉は大事。



そう 気持ち伝える言葉は 大事なんだよ





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2.せんせいさよならまた明日










「せんせい」をお仕事になさってたというご婦人がいた。





とある集合住宅の「ご相談承り窓口」にある日やって来られて





ねえねえ 信じられない。



いいことがあったの。





まるでぱあっと花が咲いたみたいに そのひとの周りが 華やいだ。



幸せな空気。





バスに乗ってたの。



「○○先生ですよね」って声かけられた。





解らなかったわよ、最初はね。



だって オジサンよ、すっかりオジサン。



でもね 男の子連れたその人が 言うの。



「先生の教えてくれた 手遊び まだ覚えてます。この子が小さいとき よく 遊びました。ほら こうして」



バスの中、テレる息子さんと手遊びするの。





そのうちね、周りから拍手が起きた。



もう びっくりでしょ。





恥ずかしいやら 嬉しいやら。





ああ、



生きてて良かったって ほんと そう思ったの。





***





あれから 少し お会いする機会がなくなって



久しぶりにお顔を見たときは 困りごとの相談だった。



電気が切れたのかしら? ここ見て下さる?



でも そこは 玄関ドアのただの覗き穴で・・・。



大丈夫 大丈夫 と安心させて 別れた。





その後 遠くに引っ越されたという。





どこかでお元気にされているだろうか。



あれから また 幸せに笑えるようなことが たくさんあっただろうか。





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3.さよなら きりん










大きなきりんのぬいぐるみが欲しい、と思ったのは 



私だったか、まだ幼かった頃の長女だったか。





うちについこの間まで、そのきりんはいた。



長女が それにまたがって、ゆらゆら揺らすと



今は亡き二女が クツクツとのどを鳴らす。



あまり感情を表さないおとなしい赤ちゃんだったので、笑った笑ったと 私も、長女も喜んで、更に大きくゆさゆさ揺らした。





赤い蝶ネクタイの 黄色いきりん。



黒い丸い目。





あんまり ゆさゆさやったので、足のところ綿が寄り、皺が出来、ちゃんと立たなくなってしまった。



長女がまた一人っ子になり、その後生まれた三女は、びっくりする程 元気者の(乱暴者とも言う)幼児に育った。



きりんは更に激しい扱いを受ける。



子守きりんはあちこち傷を作り綻びながら、それでも、付き合って頑張ってくれた。





男の子ばかりの家は ここまでぬいぐるみがない、ということを知ったのは 末っ子長男の幼稚園友達が沢山家に来るようになってからだ。



一人っ子の男の子と 男兄弟しかいない子が 競ってぬいぐるみを抱きたがった。



中でも きりんは人気者だった。





もうぬいぐるみと寝るのはやめる。



息子がそう言い出したのは 6年生になった時のこと。



子守きりんは彼のベッドの中にいて(他にも沢山ベッド周りにいた)ツノの取れた頭には ニットキャップを被らされていた。



何度も何度も 破れを縫ったが、最後はもう諦めてツノを取ったのだった。



かわいそうに思いはじめると、もう ぬいぐるみなんか捨てられない。



だけど、息子の成長宣言。



何度も、何度も もう「さよならしよう」って言ったのに 



そのたび、かわいそうだからと、繕うことを望んだ彼。





ありがとうね、きりん。ありがとうね、息子。





うちの 子どもたちの成長を見守った、子守のきりん。



こうして 息子の成長宣言をもって役割を全うし、ついに 今年の4月昇天した。



ありがとうね、ぼろぼろのきりん。



















ぺんぺん草 花束にして

オリジナル小説、随筆など。fc2「stand by me 」から引っ越しました。

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