2014.08.24 14:259月の月(さかなの目5)☆★☆ 第50回 Anniversary Mistery Circle ☆★☆参加作品。千波の家族の物語です。──もちろん、負けることもあるわ。だけど、それもいいじゃない。負けたって。 お母さんがそんな風に言うようになったのはいつからだろう。 負けず嫌いで完璧主義、そんなイメージだったお母さん。 ずっと出来の良い娘だったとも思わない。だからといって追い詰められたような気持ちになった記憶も無いし、卑屈になったことも無い、と思う。 お母さんの子育ては見事だなと感心する。「母さんはすごいぞ。素晴らしい母親だ」お父さんが事あるごとに手放しで褒めていたように。 なのに、だ。 最近のお母さんはふわふわと笑いながら「負けたっていいじゃない」、そんなことを言...
2012.02.01 13:38土星の家 木星の灯 (さかなの目4)「夏の夜はさ、涼しい風も入って来るし 月の光も挿しこんで なかなかいい感じだったぞ」幼稚園児がやっと3人入って遊べるサイズの そのコンクリートの遊具の中、お風呂にでも入っているような格好で座りながら そいつは言う。能天気な顔でそう言ったその直後、ぶるぶるっと身震いして肩をすくめ「ううん…冬は…そうだなぁ…ちょっと、寒すぎるかなぁ」…当たり前だ。知らんぷりして去りそびれて 千波はため息をついて達也を見おろした。幼馴染で隣の家の同級生だ。「土星公園」。土星を模したこのコンクリートの遊具が砂場の真ん中にあるため 千波たちはここをずっとそう呼んできた。高架下の立地で薄暗いせいもあって 最近は子供をここで遊ばせる親も少ない。今は閑散としていて ペンキの剥げた遊具...
2008.08.09 01:533年後の届け物 (「さかなの目」その2)TEXPO 高速執筆会 お題:「ポストの中に包みが入っていた」で始まること*******ポストの中に包みが入っていた。外でコトリと音がした気がして、窓から玄関先を見たら、駈けていく達也の後姿が見えた。サンダルをつっかけて出て見ると、ポストにその包みの隅っこが引っ掛かって、ふたが少し開いていた。隣に住んでいる幼馴染の達也。いったい何を入れて行ったんだろう。気になって 部屋に持って入るのももどかしく かさかさと包みを開ける。小さな茶色の袋の中に入っていたのはスーパーボール。親指と人差し指でつまんで、空にかざすと 中の小さな金色の粒が陽をうけてきらきら光った。死んでしまった金魚を小さな空き箱に入れ、千波は外に出ていた。つい さっきのことだ。前に...